しかし、ママに言わせると、ケニア人の誰もが、音楽好き、踊り上手というわけではないという。クリスチャンの多いケニアでは、敬虔な信者は、ヒット・チャートを賑わすような歌や音楽は好まないらしい。だが、教会で歌われる賛美歌も、(宗派によりけりではあろうが)僕たちがX' masなどによく聴くような厳かなものではなく、アフリカの民俗音楽の要素を取り入れたものであり、色とりどりの腰布を巻き、パーカッションや (マラカスのような音を出す)の音色に合わせて、歌い踊る聖歌隊の姿は、躍動感に溢れている。そして、それに合わせて、各々のリズムで、歌い踊る人々の様子からは、僕よりも恵まれないはずの彼らの方が、ずっとたくさんの生きる歓びを感じ取っているように見える。

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このようなリズム感は、いつごろから身につけられるのだろうか。施設が運営する保育園では、朝礼の時間だけでも、数曲の歌を振り付けで歌い、授業にも、たくさんの歌と踊りが盛り込まれている。ムワリムの号令がかかると、子どもたちは、待っていましたと言わんばかりに、椅子の前から飛び出し、せまい教室いっぱいに広がって、その小さな体から、歌い踊る歓びというものを、思う存分に発散する。それらの歌の多くは、子供向けの単純なもので、歌に関しては、「大きな声で!」というムワリムの指導通り、がなり立てているだけに近いのだが、踊りとなると、中には、童謡らしからぬ振り付けのものもあり、そんな歌では、どの子どもも、巧みな腰使いで踊り、すでに大人顔負けのリズム感を体得していることに、また驚く。

また、ケニアの小学校では、授業はすべて英語で行われるが、ケニア人が日常生活で使用する言語は、主にスワヒリ語であるため、恵まれない環境にいる子どもの中には、英語がマスターできないまま、どの授業にもついていけず、なかなか進級できない子どもも数多くいる。ワンボイも、そんなひとりで、彼女は、ほとんど英語を理解できず、話すこともない。しかし、そんな彼女も、ンズーラやウォーリーと一緒に、童謡遊びをするときには、どんなにスピーディな英語の歌でもしっかり歌い、はしゃぎ転げる。